AudioEngine™

AudioEngine™はヤマハの最新技術であると同時に長年培ってきた音場生成技術の集大成でもあります。ここではAudioEngine™を構成する3つの技術について紹介します。

これらの技術は「より自然な音、その場で聞こえるような音を再生したい」という思いから開発されました。そしてこの考え方は信号処理を支えるハードウエアの技術にも貫かれています。高品位でより自然なサウンドの再生環境を実現するAudioEngine™はさらに進化を続けており、より新しい音改善を提案します。

AudioEngine™はYDA174、YSS952に搭載されています。

「Acoustic total-linear EQ(以下AEQと表記)」は、長年のホール音響設計で培った技術を基にした音響補正技術です。具体的には周波数や位相を補正し「正しい位置に戻す」信号処理技術であり、高音質で自然な音を提供します。

ヤマハ独自の”トータルリニアフェーズ”音響補正

「トータルリニアフェーズ音響補正技術」とは、周波数だけでなく、位相(時間軸)まで補正することで、音質をより自然に改善し、ソースに忠実な音像位置を再現する技術です。従来の補正技術では実現できなかった、より自然な定位感を提供します。

AEQ OFFの場合
AEQ OFFの場合
TV正面で実測した音響特性実例です。

例えば薄型TVの場合には、スピーカーは筐体内などに隠れているため、音が耳に届くまでに高域が減衰してしまい、いわゆる「こもった音」になります。音の経路も複雑になるため、反射や回折が起こり音が揃わなくなって歪みが生じます。

AEQは、スピーカーや筐体内における反射や回折を統合した位相特性に加え、さらには周波数ごとの群遅延特性までも補正することができます。この補正処理により、あたかもスピーカーが正面に配置されているような「クリアで自然な音」を実現します。

AEQ ONの場合
AEQ ONの場合
TV正面で実測した音響特性実例です。

「Spacious sound 3D(以下S3Dと表記)」はコンサートホール設計で培った技術を基に、試聴位置にとらわれることなく、より自然で美しいサラウンド空間を提供する技術です。仮想音源を用いた音場創生技術を応用し、奥行方向に立体感を与える効果や人間の聴覚特性に最適化されたサラウンド効果を実現します。

数多くの実測データに基づいたヤマハ独自の音響技術

ヤマハはコンサートホールや劇場の残響音を実測し、音響空間特性をデータとして記録。これらをデータベースとして保有しています。

S3Dは、これらの豊富な空間特性データを最大限に活用し、さらにサラウンド成分強調処理によって空間拡張を行うことで、まるで別空間にいるような感覚のリスニング環境を提供します。

また再生機器特有のスピーカー位置に合わせ、その位相差を拡大する位相差拡大処理により、スピーカーの位置を仮想的に広げ、よりワイド感を強調した演出も行えます。

「Harmonics enhancer Extended(以下HXTと表記)」は低域と高域の音質を改善する技術です。Acoustic total-linear EQとの組み合わせにより、筺体が持つ潜在的な実力を最大限に発揮した再生が行えます。

再生システムの音質が低下する理由

音響再生機器の音質が劣化する大きな理由の一つが、筺体デザインによる音響設計への影響です。特に製品の小型化、薄型化が進む中で、再生音に最も重要な役割を果たすスピーカーが大きな影響を受け、それによって音質の劣化を招いている場合が少なくありません。具体的な影響としては「薄型化でストロークがとれずに出力が減少する」、また「小型化によりスピーカーのレスポンスが悪化し、低域周波数の再生が困難になる」などが挙げられます。

ミッシング・ファンダメンタルを利用

ヤマハが注目したのは、ミッシング・ファンダメンタル(Missing fundamental : 失われた基底音)。これは脳の錯覚を利用した考え方です。脳は、音高を基本周波数だけではなく、倍音の構成比率によって認知しています。そのため基本周波数が再生されていない場合でも、その周波数と比率があった倍音が再生されていると、人間の脳は再生されていない基本周波数の音高を認識すると言われています。

HXTは、この脳の現象を利用して、スピーカーが再生できない基本周波数を抽出し、その倍音成分を強調することで、あたかも低域の音が再生されているように、聴き手の脳に認識させる技術です。HXTでは付加される倍音の大きさや比率で音質が変化することに注目し、奇数次と偶数次の倍音を巧みに組み合わせることで実体感をより高める効果を実現しました。

圧縮オーディオにも有効

MP3、AACなどの圧縮オーディオが多く用いられていますが、それらは周波数による圧縮を行っています。これらのオーディオフォーマットでビットレートが低い場合、中域、高域周波数が犠牲になり、それによって音質が劣化します。HXTはそのような低ビットレートのデータにおいても、基本周波数から劣化した成分を生成し、伸びやかで輝きのある高域周波数領域を復元することで、音の輪郭や張りを改善します。